(前編より続く)
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現在、生成AIの技術が世界中で大きく注目されています。例えばChatGPTのようなテキスト生成AIは、その豊富な情報量によってさまざまな領域のアナリストの役割をこなすだけでなく、これまで行われていたコンピュータによる自然言語処理のタスクの大部分をかなりのスピードで置き換えています。また、Stable Diffusionをはじめとする画像生成AIは、ほとんどプロ並みのクオリティのイラスト画像を数行のテキスト指示で生成できるようになっています。しかし生成AIが与えるインパクトは単なる技術的な側面だけでなく、経済や社会課題へ与える影響も無視できません。さまざまな生成AIのビジネス活用を紹介しつつ、その技術が世界をどう変えていくかを考察してみたいと思います。
生成AIのビジネス活用
実際のビジネス利用において、これらの生成AIが具体的にどのように利用されるのかを少し紹介したいと思います。
LLMのファインチューニングによる、テーマ特化型テキスト生成AI
特定のテーマに特化したテキスト生成AIを作りたいニーズは多くあります。製薬、医療、保健業界には、生命科学・医療特化型テキスト生成AIのニーズがあります。法律事務所や各企業の法務部門にとっては、自国の法律・政令・省令の知識を備えたテキスト生成AIのニーズがあるでしょう。このようなテキスト生成AIを作成するために、LLMに追加学習を行うファインチューニングを実施することができます。
ファインチューニングには学習データが必要で、単純な文書データがあれば良いというわけではありません。テキスト生成AIに期待するタスクにもよりますが、一般的には「質問」⇒「回答」の文書ペアの学習データが必要になります。同じくテキスト生成AIに期待するタスクにもよりますが、一般的には大量の学習データ(少なくとも数万件)が必要になるケースが多いです。この学習データの整備コストにともなって、テーマ特化型テキスト生成AIは作成のハードルが高めです。
テーマ特化型テキスト生成AIは、一企業が自社利用のためだけに開発するには経済的なメリットが出しにくいかもしれませんが、多数の企業向けのサービスとして開発していく企業は今後増えてくるのではないかと考えられます。
自社ドキュメントを踏まえたテキスト生成AI
常のテキスト生成AIは、自社の業務マニュアルについて回答できるわけではない、というのは前述した通りですが、検索システムと組み合わせることで、自社の情報を踏まえた回答をさせることが可能です。処理フローのイメージは以下の通りです。
- ユーザの質問に対し、検索システム(自社業務マニュアル等の情報検索)によって該当する情報(ドキュメントの該当文書・セクション等)を抽出する。
- そのドキュメントをテキストとして列挙し、さらに続けて「以上の情報から以下のユーザ質問に回答してください」というプロンプトを追加したうえで、ユーザ質問を加える。
- 作成したプロンプトをテキスト生成AIに投入すると、該当する自社情報を踏まえたうえでの自然な回答を生成してくれる。
このような処理については、弊社がサービスしているチャットボット(https://www.tis.jp/service_solution/dialogplay/)にも、同様の機能が搭載済みで、ビジネス活用ができる状態となっています。ちなみに、業務マニュアルに対する学習データを作成するコストが十分に取れないケースが多い理由から、前述したファインチューニングの手法はあまりうまくいかないと感じています。
あらゆる自社情報と連携したテキスト生成AI
検索システムと組み合わせることで、自社ドキュメントを踏まえた回答ができることは説明しましたが、組み合わせる情報はドキュメントだけとは限りません。例えば基幹システムと連携して経営情報を問い合わせたり、CRMと連携して特定の顧客の取引情報を問い合わせたりするシナリオが考えられます。このような仕組みも、プロンプトのテクニックと、テキスト生成AIの回答を解析してシステム連携を行うシステムを開発することで実現できます。
これを実現するために、「ReAct」と呼ばれるプロンプトテクニックを利用することができます。例えばCRMシステムと連携して、さまざまな顧客情報を対話形式で取り出せるシステムをイメージし、CRMから情報を取り出すために、以下の3種類のAPIが利用できるとします。
CustomerInfo(顧客名):顧客名からこの顧客の基本情報を抽出します
TradeAmtInfo(顧客名):顧客名からこの顧客の取引額情報を抽出します
TradeRecord(顧客名, 期間):顧客名と期間からこの顧客の取引履歴を検索します
その上で、テキスト生成AIに以下のような形でプロンプトを投入します。
あなたはCRMから情報を得るために、以下のツールを使用することができます。 [CustomerInfo]:引数 顧客名:顧客名からこの顧客の基本情報を抽出します [TradeAmtInfo]:引数 顧客名:顧客名からこの顧客の取引額情報を抽出します [TradeRecord]:引数 顧客名、期間:顧客名と期間からこの顧客の取引履歴を検索します。期間が指定されない場合は”指定なし”と記載。 回答形式は下記とします。 “”” Thought:<目的を達成するために必要なことを考えて記載> Action:<Thoughtを踏まえツール名を記載> Parameter:<Action実行のために必要な引数を記載> Result:<Actionが不要な場合に結論を記載> “”” 以下の質問に回答してください。 質問: TIS株式会社の取引の履歴を知りたい。 |
そうすると、テキスト生成AIから以下の回答が得られます。
Thought: TIS株式会社の取引履歴を知るには、TradeRecordツールを使用する必要があります。顧客名と期間を指定する必要があります。 Action: TradeRecord Parameter: 顧客名[TIS株式会社]、期間[指定なし] Result: TIS株式会社の取引履歴が検索されます。 |
ここではユーザの質問「TIS株式会社の取引の履歴を知りたい」に回答するために、Action: TradeRecordの実行が必要、とテキスト生成AIが判断しているわけです。この回答に基づいて、Parameterで指定されている顧客名[TIS株式会社]、期間[指定なし]を引数にして取引履歴を抽出するAPI(TradeRecord)を呼び出し、そこから得られた情報(取引履歴)をユーザに回答します。この一連の流れをシステムとして構築することで、CRMと連携してさまざまな顧客情報を対話形式で取り出せるシステムが完成します。
このようなシナリオを実現した事例はまだまだ少ないかもしれませんが、テキスト生成AIの成長とともに今後さまざまな事例が生まれると考えています。弊社のそのような事例を拡充するために、導入支援のサービスを開始しています(https://www.tis.co.jp/news/2023/tis_news/20230823_1.html)。
画像生成AIのビジネス活用
画像生成AIの分野では、文章から画像を生成する以外にもさまざまな応用があり、それらを知っておくとビジネスでの活用の幅が広がるかもしれません。
- 元となる画像を指定し、その画像を改変するようなプロンプトを指示して新しい画像を生成することができます。この機能を利用し、商品の新デザインの発案などを行うことが可能です。この機能は多くの画像生成AIサービスにすでに実装されています。
- テキストから画像を生成するのではなく、逆に画像からテキストを生成することも可能です。この機能を活用し、目の不自由な人に詳細な状況説明をしながら道案内をするロボットが開発できるかもしれません。
- 画像生成AIもファインチューニングを行うことが可能です(学習用にタグ付けされた画像データが必要になりますが)。ファインチューニングを行うことで、自社ブランドに合ったクリエイティブ素材を生成したり、自社商品を配置したインテリアデザインを生成したりすることができるかもしれません。
正直なところ、画像生成AIはクリエイティブ素材の生成ばかりが注目されているため、広告、メディア業界以外では活用にイメージを持っていないケースも多いと思います。しかし上記の通りアイデア次第で多くの企業でも活用の道はありそうです。
生成AIが変えていくビジネス・社会
ここまで紹介した生成AIが、今後どのようにビジネス・社会を変えていくかを考察してみます。
これまで、技術の発展によって多くの職業がAIやロボットによって代替されていくという議論は活発に行われてきました。ただ、その議論の大半は単純な肉体労働はロボットに代替される、単純なデスクワークはAIに代替される、創造性が必要な非定型な作業はAI・ロボットには代替されない、という論調だったかと思います。しかし生成AIの登場でこの議論もさらに修正が必要となっています。「創造性が必要な非定型な作業」を、まさに生成AIがカバーしようとしているからです。
もちろん、生成AIの発展にともなって需要が拡大する職業もあります。生成AIのベンダーはますますその事業を拡大し、多くの技術者を雇用するでしょうし、それを支えるハードウェア、ネットワーク、半導体の産業もますます活発になるでしょう。さまざまな企業に生成AIの活用を提供するITエンジニア、コンサルタントの需要も高まるでしょうし、生成AIに良質な学習データを与えることができるライター、アーティストは重要な存在になると思われます。
しかし、本当にあらゆる業務がAIに代替されていく未来が来るのでしょうか。
一つの考え方として、AIはある人の業務を完全に代替できるわけではなく、その一部を代替あるいは効率化するという考え方があります。一般的なデスクワークにおいて、書類作成、メール処理、データ入力といった業務は、テキスト生成AIによって今後代替、あるいは効率化される可能性がありますが、会議、その他管理・調整・調査等、より複雑な判断やコミュニケーションが必要な業務は、引き続き人が担うべき業務として残ります。結果、人は本来集中するべき業務に集中することができ、大幅な生産性の向上がさまざまな産業で実現できるという考え方です。
もう一つの考え方は、AIによって本当にさまざまな業務において人員削減が行われ、多くの人が転職を余儀なくされるという考え方です。ここでは、多くの人がリスキリングによってより創造的・生産的な業務に就き、産業界全体の生産性を高めるという楽観的なシナリオと、逆に多くの人が肉体労働や無意味な仕事(ブルシットジョブ)にしか就くことができず、結果格差が拡大するという悲観的なシナリオがあります。 一方で、SDGsで示されている通り、我々には解決しなければいけない社会課題が山積みの状態です。生成AIの登場によって社会構造も大きく変化することは避けられないと思われますが、重要なことは、社会課題解決のためにも、この社会構造の変化をより良い方向にしていかなければならないということです。AI自体が社会課題の解決のために活用されることも重要ですが、AIによって変化し創出される人的資源を社会課題の解決のために有効活用できるように、あらゆる政策、制度でサポートすべきだと考えます。また我々も含めた各企業も、このより良い変化のために一層の企業努力を行っていくべきと考えます。
AI・データ分析サービス
https://www.tis.jp/service_solution/data-analytics/
データ分析・AI人材育成支援サービス
https://www.tis.jp/service_solution/ai-education/