数多あるデジタル化のソリューションの情報は集めれば集めるほど、どれを使えばよいのか分からなくなります。DX戦略立案は、診断からスタートします。これまでに築き上げてきた顧客・取引先との関係性や、仕事のやり方、ルール、仕事で使っているデータの現状を関係者間で再確認できるようにします。マネジメント層からはビジネスモデルを強くするアイデアや、若い仲間を引き付けるヒントを引き出します。ソリューションの提供者と対話しながら、実現可能性、期待できそうな便益、コストの目安を得て、いつまでに何をするか(将来目標)と道筋(ロードマップ)を提供します。
INDEX
“ヒト”に焦点を当てる
「デジタル技術によってもたらされる、人々の生活のあらゆる面での変化」。これは、よく知られている、2004年に、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を最初に主張したといわれるエリック・ストルターマンによるDXの定義です。また、「エンドユーザーと、会社、サービス、およびその製品とのやり取りのすべての側面が含まれる」。これは、ニールセン・ノーマングループによる、ユーザー・エクスペリエンス(UX)の定義です。
これら2つのXが、どちらも英単語のスペルの頭文字ではないと確認しながら、ともに、“ヒト”に焦点が当たった考え方だということを理解することができます。
「働き方改革」。これも、よく聞く言葉です。「こんな昭和な仕事のやり方をしているなんて信じられません。」「ままっ、そう言わずに、私も若い頃にこの仕事をやっていて、私もなんでこんな仕事のやり方をしているのか疑問に思ったのだが、そのうち慣れるから大丈夫だよ」「せっかく、親や親戚のおじさんに、立派な会社に入ったねと褒められたけれど、こんな仕事の仕方をしていては自分は成長できないと思うので、会社を辞めさてもらいます。」「えっ!そんなことで会社を辞めちゃうの?」
“ヒト”は成長できない環境では生きていけないのです。まあそう、決めつけるのは極端かもしれませんが、優秀な若い人材を確保するための最重要の経営課題の一つが働き方改革という訳です。
あれもこれも、ではなく、あれかこれか
家のテレビやタクシーの後部座席のタブレットでは、デジタル・プロダクトの動画が目白押しです。「このソリューションの開発会社に連絡してみよう」「こちらのも、切り口が違って興味深い、さっそく問い合わせよう」「たくさんの情報が集まったけれど、どこにお願いすればよいか決めきれないなあ」「さあどうしようか」
20年ほど前、あるクライアント企業の情報システム部門のトップから「情報システム台帳」を作るのを手伝ってもらえないかと言われて驚いたことがあります。私はこころの中で、「なぜ、台帳が無いのか」と不思議に思いました。しかし、情報システム部門が直接管理しているもの以外に、各部門で所管しているもの、使っているが保守契約していないものが数多くありました。契約書や仕様書を紐解き、資料を集め、聞き取り調査をして数百行にもなる台帳が出来上がりました。「こんなにたくさんの情報システムがあったんだね」「そうか、こういうことだったのか、この企業がビジネスを拡大していく過程で、さまざまな顧客との関係を構築し、多くの取引先との関係を取り結んできていて、その都度、新しい仕事のやり方を取り入れてきた証(あかし)なんだ・・・」
過去においても、常に、不確実性があり、予測できない中で、一つひとつ大切な顧客や取引先との関係を築き上げ、仲間を増やしてきたのです。
「サイロ・エフェクト」「端末公害」「野良ロボット」、最近では「ETL地獄」。なんだか、エンタープライズ(大企業)は、とても恐ろしい場所のように聞こえます。
これからは、「あれも、これも、ではなく、あれか、これか」。“ヒト”との関係性を保ち、発展させ、仲間を守るために、地獄から抜け出す“戦略”が必要です。
DX戦略をどう打ち立てるか
リチャード・P・ルメルトは、「良い戦略」の基本構造を、次のように解説しています。
①診断 – 状況を診断し、取り組むべき課題をみきわめる。良い診断は死活的に重要な問題点を選り分け、複雑に絡み合った状況を明快に解きほぐす。
②基本方針 – 診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示す。
③行動 -ここで行動と呼ぶのは、基本方針を実行するために設計された一貫性のある一連の行動のことである。すべての行動をコーディネートして方針を実行する。
(出典:リチャード・P・ルメルト「良い戦略、悪い戦略」日本経済新聞出版社)
DX戦略立案も、このセオリーを尊重します。
①診断
企業の長い歴史の中で、紡ぎあげてきた多くの顧客や取引先との間で行われている仕事のやり方や、ルール、判断に使うデータを、それぞれの担当者は知っていますが、その全体を眺めることができるようになっていません。ビジネスモデル診断やDX組織診断、さらに、データ資産評価を通じて、今の自分たちを知り、何ができるのか、何を使えるのか、今はできないが将来やるべきことを明らかにします。
②基本方針の策定
これからは、「あれも、これも、ではなく、あれか、これか」。最重要な課題は何か。インサイト探索において、マネジメント層からはビジネスモデルを強くするアイデアや、若い仲間を引き付けるヒントを引き出し、ソリューションの提供者と対話しながら、実現可能性、期待できそうな便益、コストの目安を得て、実現可能な複数のソリューション(代替案)を確認します。さらに、人的リソースや予算の制約を踏まえた実現可能な将来目標を定義します。
また、ルメルトは「悪い戦略」の特徴を4つ挙げています。
1.空疎である(わかりきったことを必要以上に複雑に見せかける)
2.重大な問題に取り組まない(立派な目標と、予算を投じてがんばろうというだけ)
3.目標と戦略を取り違えている(困難な問題を乗り越える道筋がない)
4.まちがった戦略目標を掲げる(寄せ集めの目標、非現実的な目標)
現時点で、実現可能な将来目標を掲げたとしても、今後の変革の取り組みの過程において、予測不可能だった事態が生じることはあり得ます。
③成功する起業家のような行動計画
目標主導(管理者的思考)ではなく、手段主導(起業家的思考)。成功する起業家の行動原理を分析した、サラス・サラスバシーの研究によると、調査した27名の熟達した起業家のうち、誰一人、目標主導で行動してはいなかったということです(サラス・サラスバシー「エフェクチュエーション」)。
目標に縛られると、現時点で持っていない手段(人的リソースやソリューション)を探索することに時間を消費してしまうため、手持ちの手段で実現できることを目標にするという現実的なやり方を優先し、一つひとつの実績を積み上げながら、新たな手段を増やして新たな目標を達成していくという行動原理が見られたということです。
「トヨタ生産方式」の考え方を参考にしたとされる「リーン・スタートアップ」や、初期段階にシステム要求を完全に把握することの難しさを自然のことととして受け入れる「適応型開発アプローチ:アジャイル」も、同じく、起業家的思考のアプローチと言えます。
企業のDXは、エンタープライズ(大企業)の中でスタートする「起業家的思考」による取り組みです。
お客様の状況に合わせた柔軟なご支援方法のご紹介
TISは、お客様に、いつまでに何をするか(将来目標)と道筋(ロードマップ)をご提供するため、お客様のDX推進のために必要なピースをご用意しております。。代表的なご支援方法の例をご説明します。
ご支援方法例 | 説明 | 手法 |
DX戦略立案支援 | 戦略立案の進め方をご提示し、プロジェクトの冒頭から、弊社メンバーが参画します。お客様の状況に合わせて、実施タスクの選定と役割分担をご提案します。現状調査やソリューション探索など、短期間で集中して取り組む必要のあるタスクで、確実な進捗が期待できます。マネジメントへの報告などのマイルストンに向けて弊社のプロジェクトメンバーは、全力を挙げて取り組みます。 | プロジェクト企画実行 |
特定テーマの伴走型支援 | 貴社リーダーのもと、貴社メンバーと一体となって弊社スタッフは活動します。事務処理のDX化など段階的に関係者や適用範囲を拡大していく長期的な取り組みにおいて、人的リソースを確保する方法として効果的です。 | スタッフ増強 |
DX推進人材の育成 | DXに関与することがはじめてという方を対象に、基礎的な知識をインプットしながら、企画業務を模擬的に体験していただきます。弊社の社員向けの研修コンテンツをベースにしておりますが、お客様のご要望に応じたトピックのアレンジも可能です。 | ワークショップ |