【データ基盤の構築/運営処方箋】コンプライアンスとデータマネジメントの成功戦略

シニアマネージャー
今村 知浩
2024.10.04

近年、企業のデータ利活用の重要度は年々高まっていますが、上手くいかないというケースは少なくありません。そこで、企業のデータ利活用を推し進めていくために必要となるデータガバナンスやデータマネジメントの重要性、データ基盤のスモールスタートのアプローチ、コンプライアンス上の課題とその解決策を紹介します。

企業におけるデータ利活用と、データガバナンス・データマネジメントの役割 

データを活用することで、意思決定の精度向上、生産性向上・業務効率化、他部門との連携活性化、新サービスの創出など、多くのメリットが期待されます。ただデータを集めて分析するだけでは不十分です。戦略的な計画に基づき、データを整備し、目的を達成するための施策を実行することが重要です。しかしながら、データを利活用しようとした際に、データが整備されていないことに気付く企業が増加していますそして、この問題を解決するのがデータガバナンス・データマネジメントの役割になります。データガバナンス・データマネジメントとは、正しいデータを使いたいときに使うことができる状態にした上で、そのデータを利活用する活動です。データガバナンス・データマネジメントを行わなければ、価値創出を実現させることはできません。

多くの企業がデータ基盤を構築し、様々なツールを導入していますが、現場での利活用が進まないという悩みを抱えています。その原因の一つは、データが組織全体の資産として管理されておらず、部分的な組織やシステムに依存していることです。この状態では、データのサイロ化や品質の低下、利用権限の不明確さなど、様々な問題が発生します。また、業務システムを開発する際に、全社でデータを使うという視点が欠落しているため、業務システム自体は立派でも、データを活用しようとするとデータの品質が悪いという問題が発生してしまいます。

データ利活用を組織的に推進し、継続的な価値創出を実現するためには、データガバナンスとデータマネジメントが不可欠です。理論的には、データマネジメントのレベル定義があるため、それを元にデータガバナンス・データマネジメントを高度化することが可能です。しかし、データガバナンス・マネジメントの高度化は時間とコストがかかり、成果が見えにくいという課題もあります。

そこで、データ基盤のスモールスタートというアプローチが有効です。これは、ニーズが顕在化している部分から取り組み、成功体験を積み上げながら拡大していく方法です。例えば、特定の事業部門でデータ利活用を始め、その成功事例を他の部門に展開していくことで、自然と全社的なデータ基盤が構築されていきます。 

データ基盤とコンプライアンス上の考慮点

データ基盤を構築する際には、コンプライアンス上の問題にも注意が必要です。まず、データがあるというだけでは、「データをどのように使って良いか、悪いか」が分からず、データ利活用が進みにくくなります。近年では、チャットGPTなどのAIが台頭し、法律や契約、倫理の視点からデータを何に使ってよいのか考える必要がでてきました。つまり、「データをどのように使って良いか、悪いか」を管理することで、データを資産として活用することが可能になるのです。

データの法的な位置づけについても理解しておくことが重要です。データは物と異なり、所有権という概念がありません。そのため、アクセス可能なデータは基本的に自由に利用できるとされています。著作権や個人情報といった一部のデータ以外は法律での縛りがありません。そこで、企業間でのデータ利用においては、データ権限を定める手段として、データ契約によって利用条件を明確にすることが重要になります。経済産業省もAIデータ利用に関する契約ガイドラインを提供しており、これを参考にすることでデータ利用のリスクを低減できます。 個人情報の取り扱いについては、特に注意が必要です。日本の個人情報保護法だけでなく、グローバルに事業を展開する企業は各国の法律も遵守しなければなりません。例えば、外国に住む方の個人情報を扱う場合、その国の法律も考慮する必要があります。これにより、データの管理が複雑になるため、早期に適切なルールを設定することが重要です。

データ基盤のスモールスタートと、構築上の工夫

前段からご説明してきたとおり、最初から全社データマネジメントレベルを高め、同時に全社データを全部集めて、巨大且つ横断的なデータ基盤構築を構想するケースも多いすが、失敗時のリスクも大きくなってしまいます。そこで、データ基盤のスモールスタートが有効になります。データ分析・利用のニーズを起点にして基盤構築に取り組み、実際のデータ利活用を通じて基盤を拡大していくアプローチです。ただ、注意点としてデータ基盤を汎用的に構築する必要があります。社内で、データ利活用事例が認知されると、自然と他事業への展開が期待され、データ基盤へのデータ登録やデータ基盤機能拡張ニーズが生まれるケースがあります。その時にスムーズに拡張できるよう、スモールスタート時からルール作りを徹底しておくことが重要です。

データ基盤のスモールスタートを実現するためには、エンジニアとデータサイエンティスト・アナリスト、データマネジメント担当の密な連携が不可欠です。各担当が別々のチームで、お互いの考えが分からない体制で進めるのではなく、それぞれの混成チームを編成して、データ基盤構築を行うことで、アジャイルな開発が可能となります。また、スモールスタートでの実現には、スケーラブルで従量課金のクラウドサービスを利用し、小さいコストで始めることが重要になります。  エンジニアやデータサイエンティスト等が協力、工夫した事例として「個人情報の削除を確実に、素早く、そして楽に実行できるアーキテクチャとした」事例をご紹介します。データマネジメントの視点では、個人情報の削除要請を受けた場合に、確実に削除を行う必要があります。そこで、個人情報の削除に直接関わることのないデータサイエンティストやエンジニアが個人情報を一箇所に集めておき、確実に、素早く、楽に削除できるというアーキテクチャにするという事例です。このような工夫をエンジニア、データサイエンティスト、データマネジメント担当が協力して取り組んでいくというのが重要なポイントになります。

 データマネジメントの領域は、最近になってその必要性が認識されるようになりました。そのため、これから取り組みたいとお考えの方や興味を持たれた方、何から始めればよいのか分からない方もいらっしゃるかと思います。データ基盤やデータマネジメントについてお困りごとやご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。


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この記事の執筆者
今村 知浩
Tomohiro Imamura
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2021年10月 ~TIS入社
2021年10月〜 石油企業向けDX企画構想支援

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