アジャイル開発をスムーズに開始し、安定に導くために必要なドキュメント

チーフ
宮﨑 勇輔
2024.09.17

アジャイル開発を進める中でチーム外の人から口を出されて開発に集中できないという経験はありませんか。チームの運用がコロコロ変わったり、暗黙の運用ルールでなんとなく進めていたりしませんか。これらの解決に「アジャイル管理方針書」が役立ちます。今回は、アジャイル管理方針書について説明します。

アジャイル管理方針書とは

アジャイル管理方針書とは、アジャイルの進め方や各種管理方法(コミュニケーション、進捗等)を記載した運用ルールおよびガイドラインです。アジャイルチームはこのドキュメントに従って運営されます。変更があれば都度メンテナンスされ、初版に対する修正を悪としません。

インセプションデッキやワーキングアグリーメントとは異なり、アジャイルの進め方や管理方法に焦点を当てたドキュメントになります。ウォーターフォール型のプロジェクトを経験したことがある方は、プロジェクト計画書や運営手順書といったドキュメントを目にしたことがあるかもしれません。これらのアジャイル版とイメージすれば概ね良いかと思います。ただし、チームメンバーが自ら考え、作成し、合意したものになります。

必要性とメリット

アジャイル管理方針書の主な必要性とメリットは以下です。それぞれについて説明していきます。

・周囲の理解を得たうえでスタートできる
・メンバーの途中参加にかかるコストが下がる
・チーム運営の維持や変更がしやすい
・横展開、スケールに役立つ

周囲の理解を得たうえでスタートできる

アジャイル管理方針書をステークホルダーに説明し、理解を得ることで今回の「アジャイル」に対する不安や過度な期待が下がり、スムーズなスタートをすることができます。一口に「アジャイル」といっても方法は様々です。いざアジャイルを始めてみたら、チーム外の人から色々と指摘を受けることはありませんか。事前にチーム内で決めた運用も再考することになり、開発に集中したいのにできないという状況に陥ります。このような状況はチームにとってかなりストレスであり、避けたいものです。アジャイルの経験や知識が乏しい組織においては特に注意する必要があります。なぜならその人たちにとってアジャイルは未知そのものだからです。最終的な責任を負う方の立場を考えれば、「大丈夫なの?こう進めてみたら?」と不安になり、色々口を出してしまうのが自然でしょう。

メンバーの途中参加にかかるコストが下がる

アジャイルにおいてチームメンバーの入れ替わりや増減は推奨されていることではありませんが、社員の退職や長期休暇、契約の関係等で少なからず発生します。管理方針書があれば途中参加者に事前に目を通してもらい、後から不明点をヒアリングすることができるため、説明の時間を短縮することができます。また、運営方法について漏れなく説明することが可能です。途中参加した者からすると運営についてのキャッチアップが早くできるため、立ち上がりの早期化に繋がります。

以前、私が所属していたチームでは同月内で3名入れ替わった経験があります。同月内で別々のタイミングでの入れ替わりでしたので、一人ひとりにチームの運営等を説明するのが大変でした。また、説明内容も統一できていなかったため、1人目が知らないことも3人目は知っているということがありました。今となっては管理方針書がこの時にあれば、どれだけ楽だったかと思います。

チーム運営の維持や変更がしやすい

管理方針書によってルールからの逸脱が分かりやすくなります。管理方針書の内容を変える場合は、チームで合意してからという明確なプロセスを構築できるため、ルールに反することを行うことはNGとなります。また、ドキュメントを基準にメンバーが相互に注意することが容易になります。注意をすることに苦手意識を持つ人が思いのほかいます。

横展開、スケールに役立つ

一度作成した管理方針書は他のプロジェクトや部門でアジャイルを導入する際の参考となります。そのまま流用することはできませんが、一から作成するよりも労力を必要としないで済むことは想像に容易いかと思います。また、組織次第では、参考とする管理方針書をもとにアジャイルを実施した前例があるとなれば、社内調整がしやすくなることも考えられます。チームを増やし、アジャイルをスケールする場合も同様です。前述した説明コストを下げる意味においても有効です。

作成時のポイント

作成する際に押さえておくと良いポイントをいくつかご紹介します。

・アジャイルの適用範囲、進め方を明確にする
・計画・進捗・品質管理は要注意
・事前に作成し、合意を得ておくこと
・詳細までガチガチに定義しすぎない

アジャイルの適用範囲、進め方を明確にする

アジャイルの適用範囲というのは、アジャイルという開発アプローチとプロジェクトのライフサイクルとの関係性を明確にすることです。よくあるのがライフサイクルの一部にアジャイルを適用するという場合です。予測型(ウォーターフォール型)における要件定義からリリースまでのフェーズの中、開発フェーズでアジャイルを実施するといった具合です。いわゆるハイブリッド型となり、予測型(ウォーターフォール型)で求められる管理レベルとのバランスを取ることが求められます。

他方でイテレーションの中で要件定義からリリースまでをすべて実施する場合もあります。小規模な保守開発などで見られます。アジャイルで進める際の前提となる部分なので、この辺りの認識が関係者間でズレないように明確にします。

進め方というのは、チームがどのように作業を進め、作成物がどのように生み出されるのかという部分です。例えばスクラムを用いてスプリント単位に進めていき、スプリント内では動作するものを作成してレビューが完了した後、設計書を作成する等です。受託開発であれば顧客にレビューをいつしてもらうか等も記載しておくと良いでしょう。

計画・進捗・品質管理は要注意

これらの分野はウォーターフォール型の管理方法と比較してアジャイル特有の考え方や管理方法が顕著に現れます。具体的には、価値駆動型の計画管理、相対見積・平均ベロシティやバーンダウンチャートによる進捗確認、完成の定義やプロセスによる品質担保等です。この違いや方法を明確にし、分かりやすく記載することが重要です。

経験上、ここが不明瞭だとチーム外の方々による社内レビューで指摘を多くもらうことになります。また、レビューアーにアジャイルの経験がない場合は、自然とウォーターフォール型の管理方法をベースに考えるため、口頭で説明しても一度では理解できない、且つ管理不十分に思われます。なるべく図表を用いてイメージしやすい記載を心がけると良いでしょう。

ウォーターフォール型とアジャイル型のハイブリッド型で進める場合には、管理レベルのバランスが求められます。進捗報告をどのように行うか、品質指標はどこまで収集し分析するか等を決めて記載する必要があります。

事前に作成し、合意を得る

言わずもがなかもしれませんが、プロジェクトの開始前に作成し、ステークホルダーと合意を得ておくことが重要です。しかし、現実的には難しいかもしれません。その場合は、現運用を資料に起こす形でなるべく早く作成することを推奨します。作成に割ける時間がない等はあるかもしれませんが、生みの苦しみだと思って作成することを推奨します。弊社のような外部ベンダーを活用して作成するという方法もあります。

詳細までガチガチに定義しない

最後に誤解を招かぬよう補足の意味も込めたポイントです。管理方針書には運用ルールの詳細を事細かく記載しないようにある程度の幅を持たせます。あまりガチガチに定義してしまうと方針書を変更するのが億劫になり、チーム内での改善が進まなくなる恐れがあるからです。些細なルールについてはメンテナンスのしやすい場所で必要に応じて管理しましょう。

さいごに

いかがでしたでしょうか。今回はアジャイルの管理方針書についてご説明しました。作成することは骨が折れる作業ですが、作成すれば大きいメリットを享受できると考えています。管理方針書について詳しく聞きたい、作成を依頼したい等があれば、ぜひお気軽に一度弊社までご相談ください。


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この記事の執筆者
宮﨑 勇輔
Yusuke Miyazaki
プロフィールを見る

2014年
PLMシステムの導入支援に従事
2017年
プロジェクト管理、原価管理システムの導入支援に従事
プロジェクトマネジメントにおけるコンサルティング業務に従事
2022年
TIS入社
アジャイルの実行支援および研修講師に従事

専門

アジャイル開発
プロジェクトマネジメント