「スクラムマスター」が何者なのかズバリ答えることができますでしょうか。現場でスクラムマスターをしていると、「プロダクトオーナーを支援する」、「進捗を阻害する要因を取り除く」など教科書的な綺麗事ばかりではなく、泥臭さを感じます。また、庶務的な作業を求められたり、技術的なリードを求められたりと案件ごとに求められる“スクラムマスター“に違いが見られます。このようなギャップは、スクラムはもとより、スクラムマスターについて理解を深めることで無くせるものではないかと考えています。スクラムマスターとは何者なのか、存在意義について現場の体験を交えながらご紹介します。
INDEX
(前編より続く)
現場でのスクラムマスターの働き(前編からの続き)
前編では「アジャイル/スクラムの理解」と「パフォーマンス改善」についてご紹介しました。後編では「チームビルディング」と「マインド、振る舞い」についてご紹介したいと思います。
チームビルディング
チームが安定的にパフォーマンスを発揮するためにチームビルディングの施策を進めることも重要です。主に以下を行っています。
- ワーキングアグリーメントの作成
- 偏愛マップで人柄を共有
- メンバーと1on1
- 期待値のすり合わせ
「ワーキングアグリーメントの作成」は、チームの約束事を作成し、皆で合意することです。我々のチームは定期的に作り直しています。ホワイトボード上に各々のメンバーが付箋として貼り、全員が合意できるまで会話して決めています。可能であれば不文律となっていることをアグリーメントにしておくで新規メンバーが加入した際にチームを理解するのに役立ちます。
我々チームのアグリーメントには「難易度が高いタスクは個人ではなくチームで解決する」というものがあります。チームで進めるというスクラムの考え方が反映されていて個人的に好きなアグリーメントです。これにより、メンバーは課題や詰まっている部分を躊躇なくチームに相談し、効率的に作業を進めることができています。
「偏愛マップで人柄を共有」は、自分の好きなものを1枚のスライドにまとめた「偏愛マップ」を皆で共有し、お互いの人柄を知ることです。新規チームの立上げ時や新規メンバー加入時に行っています。人柄を知ることでその後の会話のハードルが下がります。また、共通の“偏愛”が見つかれば距離感がグッと縮まります。我々のチームはゲーマーが多く、ゲームの話題で盛り上がっていました。下図は私の偏愛マップです。どうですか、私の人柄が少し伝わりませんか。
「メンバーと1on1」は、1スプリントにつき1人、私がメンバーと行う面談です。メンバーの前では言いづらいことなどを遠慮なく言ってもらいます。それらをヒアリングするなかでチームの課題を見つけることができます。たとえば、「打合せのときに発言しにくい」という話しを受けたときは、打合せ中に私から意識的に話を振るようにしたり、ホワイトボードに付箋で意見を出す時間を設けたり、チーム内に心理的安全性についてのアンケートや発言しやすい環境の意識付けを行ったりしました。ヒアリングする以外にもメンバーに対する期待や評価について私から伝える場でもあります。私の想いだけではなく、他のメンバーとの1on1で聞いたその人に対する評価などを伝えています。今後の働き方に対する意識付けや業務へのモチベーションを見いだすことを意識しています。
「期待値のすり合わせ」は、あらかじめプロダクトオーナーと開発チームにお互いに期待していることをヒアリングし、それをもとに期待値をすり合わせてチームとしてどう応えていくかを考える場になります。特にプロダクトオーナーからの期待値は「~できるチームになってほしい」などが挙げられ、チームとして目指すべき姿のようなものをチーム内に醸成することができます。
我々のチームは以前からプロダクトオーナーとのコミュニケーションが不足しているという話がチーム内にありました。そこでプロダクトオーナーが参加するイベントを増やしたり、雑談する場を設けたりしましたが、課題感は払拭しませんでした。メンバーに聞いても「なにか違う」と言語化できず、個人的に釈然としない気持ちをずっと抱えていました。この場を設けてからコミュニケーション不足の話は出てきておらず、結局のところ、お互いの期待値を理解することが不足しているのだと分かりました。
マインド、振る舞い
最後は日頃からスクラムマスターとして意識しているマインドや振る舞いについてです。主に以下を意識しています。
- 価値基準と原理原則に遵守した言動をする
- 基本的にチームに任せ、原理原則を逸脱したら口を開く
- チームがより良くなるためにどうしたらよいかを常に考える
「価値基準と原理原則に遵守した言動をする」は、アジャイルやスクラムを説く立場にとっては当たり前といえば当たり前ですが、説くには言動が一致している必要があります。無意識に計画通りに進めたいと思っていないか、直接会話せずにチャットで済ましていないか、定期的に自問自答しています。
「基本的にチームに任せ、原理原則を逸脱したら口を開く」は、チームの自己管理を育むためです。進め方や対応方針など聞いていると、つい口を出して色々意見を言いたくなるときがあるのですが、アジャイルやスクラムの考え方に反することがない限りは極力発言しないようにしています。また、「スクラム的にどうなのだろう?」といった話が出てきても、すぐには反応せずにメンバーに一度考えてもらう間を取るように心がけています。とはいえ、すぐに口を出してしまいがちなので個人的には一番難しい心がけになります。
「チームがより良くなるためにどうしたらよいかを常に考えること」によって改善につながる気づきなどを発見することができ、レトロスペクティブでチームに共有することができます。チームのパフォーマンス改善などはこのマインドこそが淵源となります。何も考えず、チームの近くで働いていても気づくことはできないでしょう。これはチーム内に限った話ではなくチーム外の観点も含めています。顧客先でスクラムをしている場合は顧客が良い例です。いかに顧客にとってスクラムチームがより良くなれるかを考えます。前述のプロダクトオーナーと期待値をすり合わせ、応え方について検討する話もこのマインドから思いついたものです。
現場のスクラムマスターの業務イメージが付いてきましたでしょうか。今回ご紹介したのはごく一部です。また、チームによって必要な業務は異なりますのであくまで一例です。他にもスクラムイベントの管理や申請系、開発リーダーのサポートなども行っています。
(まとめ)スクラムマスターの存在意義
冒頭でスクラムマスターの公式な定義を確認し、次に実際の現場でどのようにスクラムマスターが働いているのかをご紹介しました。これらからスクラムマスターとは何者なのか理解することができましたでしょうか。ご紹介した通り、スクラムマスターの仕事は多岐に渡ります。スクラムの教育だけではなく、チームビルディングやイベントの日程調整、申請系といった庶務的な作業も状況に応じて行います。それもすべてスクラムを確立させ、チームの有効性を示し、結果1を最大化するためであり、ひいてはお客様への貢献に繋がるからです。
スクラムマスターは、サーバントリーダーと言われます。メンバーに指示命令を下すのではなく、積極的に奉仕し、主体的な行動を促します。私の好きな話に『東方巡礼』があります。旅をする一行に召使いが参加し、旅は滞りなく続くが、召使いが抜けた途端に混乱が生まれ、旅が頓挫してしまう。そのときに一行は召使いがいなければ旅ができないことに気が付くという話です。この召使いの働きは、スクラムマスターの存在意義に通ずる部分があると感じています。一見すると便利屋や庶務担当のように思われるかもしれません。しかし、実際はそうではなく、影ながらチームのことを真に考え、チームの成長を願い、サポートしながら促し、導いていくリーダーであると考えています。
関連する記事
「スクラムマスター」とは何者なのか。アジャイルの現場から考えるスクラムマスターの存在意義。【前編】
複雑化するプロジェクトを成功に導くプロジェクトマネジメントプラットフォーム
アジャイル開発をスムーズに開始し、安定に導くために必要なドキュメント
アジャイルDX推進マネジメントサービス
https://www.tis.jp/service_solution/pm_platform/agile_service
Leading SAFe®研修
https://www.tis.co.jp/seminar/training/Leading_SAFe.html
DX人材育成サービス
https://www.tis.jp/service_solution/DX_HR_development/