生成AIに代表されるテクノロジーの飛躍的な進化や、世界的に大流行した新型ウイルス感染症を契機としたデジタルシフトの加速、ロシアのウクライナ侵攻などの不確実性の高まりを受けて、企業におけるデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)は待ったなしの状況にあります。企業価値向上を目的としたDXを推進するためには、それを支える人材や組織の変革が必要不可欠です。本稿では、冒頭であるべきDX人材像と推進組織のあり方について述べた後に、自社における人材育成の経験を踏まえた、お客様との伴走型でDX人材育成を支援するオファリングをご紹介します。
INDEX
1.はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を契機にデジタルシフトが一気に進み、それに伴って消費者行動や価値観も多様化しています。不確実性の高い時代において、外部環境変化にスピード感を持って対応し、競合他社との差別化を図りながら企業価値を向上させるために、企業におけるDX推進はまさに待ったなしの状況になっています。そこに立ちはだかるのがDXを推進する社内人材の不足です。
総務省が2022年7月に発表した「令和4年版 情報通信白書」によれば、企業でDXが進まない理由として挙げられたのは「人材不足」が67.6%を占め最多でした。
また、独立行政法人情報処理機構(IPA)は、DXを推進する人材の「量」の確保について、2021年度と2022年度に米国企業と日本企業に調査を行っています。
その調査においてDXを推進する人材が大幅に不足していると回答した割合が、米国企業に比べて日本企業では大きな数字となっています。
最新のテクノロジーを取り入れつつ、従来の発想を超えてスピーディーに全社規模で変革を推進する人材が求められます。そうした背景を踏まえて、TISでは自社の人材育成の経験を生かした、DX人材育成を支援するオファリングを提供しています。
では、DX人材とはどのような人材なのでしょうか。参考事例として、TISが考える「DX人材に必要な要件」と「DX人材像」について次章でご紹介します。
2.DX人材に必要な要件とDX人材像
①DX推進に必要な振る舞いとは
外部環境の変化に素早く的確に対応するためには、図1に記載した4つの振る舞いが必要になります。
(1)アジャイルな事業推進
不確実性が高まり将来が見通し辛いため、スピード重視で検討を進め、不完全あるいは小規模でも早期に実行に移すことが求められます。その一連の動作をリードする役割が必要不可欠です。
(2)データ起点で活路を見出す
デジタルシフトが加速しているなか、顧客志向や経営環境、働き方や従業員意識の変化を正確にとらえるためには、データを拠り所とした状況把握と打ち手の導出ができる人材が必要となります。
(3)組織横断的な推進
新しい顧客体験提供や業務変革をアジャイルに推進するためには、事業部間やビジネス/IT間の垣根を越えて、自社の知見を集結した全社横断的なプロジェクト型組織を統率・運営できるケイパビリティが必要です。
(4) 最新技術の実用化
技術の急速な進歩により、従来では不可能だったことが実現できる可能性が高まっています。ビジネス目標達成や課題解決のために、最新技術をどう活用するのかをデザインできる人材が必要となります。
②必要となるDX人材像
続いて、前述した振る舞いを実践するDX人材像について、TISの事例(一部抜粋)をご紹介します(図2)。IPAが作成しているデジタルスキル標準をベースに、ITベンダーとしての企業価値向上の観点も加味して定義しています。第4章でご紹介するDX人材育成プランニングでは、自社や他社の事例も参照しながら、お客様独自の人材像を定義した上で育成計画を作成しています。
3.DX推進組織のあり方
次にDX推進組織のあり方について、ジェラルド・C・ケイン著書の「DX企業戦略」の内容をベースに、“DX競争環境で成功する企業に共通するモデル”という切り口で、図3を用いて説明します。
まずリーダーシップや組織運営は階層型ではなく分散型の傾向にあり、部門の枠を超えたコラボレーション・協業が日常的に行われています。
社員に対しては実験と学習が推奨され、全体的にアジャイルで迅速な行動特性が見られます。それに加えてリスク許容度が高く、大胆で探索的傾向が見られます。
また、育成した人材の定着化・リテンション強化にも配慮した組織設計が必要です。組織の機能と必要な要員を明確にすること(組織設計と要員計画)、計画的に活躍の場を提供すること(要員配置計画)、スキルやキャリアパスの可視化(スキル管理)、組織目標にアラインした業績目標設定と公平公正な評価制度(目標管理と業績評価)などを、人材育成と併せて検討することが重要です。
それに加えて、近年重要視されているのが職場における心理的安全性の確保です。心理的安全性が社員のパフォーマンスに直接的に影響を及ぼすといった研究結果が多く発表されています。たとえ必要なスキルを身に付けて実務経験を積んだとしても、心理的安全性が低い職場では十分なパフォーマンスが発揮できません。
4.TISが提供するDX人材育成サービス
①全体像
TISでは、DX人材要件・スキル定義から育成カリキュラムの策定、研修効果の可視化に関するコンサルティングサービスや、各種個別研修を提供しています。その全体像を図4~5に示します。人材育成を構想・習得・実践の3フェーズに分け、各フェーズ毎に最適なサービスを提供することが可能です。
②DX人材育成プランニング
構想フェーズの一環として、DX人材定義・育成カリキュラム策定・研修効果の見える化を実施します。ゼロから育成プランを作成したい、或いは既存の育成プランを見直したい場合に有効なサービスです。
③個別研修
目的別に各種研修メニューを提供可能です(図6)。TIS独自に開発した研修メニューに関しては、自社のDX人材育成にも利用しているメニューをお客様向けにカスタマイズしているため、効果的かつ実践的な内容になっています。
④OJT型プロジェクト推進
座学だけではスキルの定着が難しく、真の人材育成は成しえません。特にビジネスアーキテクトなど育成難易度が高い人材に関しては、実践の場での育成(=OJT)を合わせて実施することが肝要です。主にそういった人材を対象として、実際のDXプロジェクトで経験豊富なTISのコンサルタントが伴走しながら実務経験を積んで頂くサービスも提供しています(図7)。
おわりに
本稿では、TISが考えるDX時代に必要な人材像・推進組織のあり方を紹介したうえで、TISが提供しているDX人材育成サービスにも触れました。当サービスは、TISの人材育成の経験値、各種アセットをベースにしているため、実践的でスピード感のある変革実現に寄与します。今後更にサービス提供実績を積むことでアセットを充実させ、お客様への提供価値をより高めていきます。
参考文献
1)ジ ェ ラル ド・C・ ケイン ほ か:DX 企 業 戦 略,NTT出 版 2020.10
DX人材育成サービス