経済産業省が「DXレポート」で日本企業に経済損失の警鐘を鳴らしたのは2018年、その後、コロナ禍での働き方改革、ChatGPTなどAI活用が進み、企業のIT投資は近年大幅に増加しています。その一方で、DXプロジェクトの多くで問題を抱え、うまくいっていないという声を数多く聞くようにもなりました。
DXプロジェクト開始時の実効性・実現性ある計画の重要性は、私たちからこれまでにも提言、様々なメディアやコラム、書籍でもご紹介している通りです。今回は、DXプロジェクト立上げ前に立ち返って、なぜうまくいかないのかについて、「組織課題」「スキーム課題」「マネジメント・人材課題」の3つのポイントでご紹介します。
INDEX
DXプロジェクトの現状
経済産業省が「DXレポート」で「日本企業がDXを推進しなければ、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警鐘を鳴らしたのは2018年。
さらにコロナ禍で新しい働き方を模索する動きやChatGPTによるAI活用促進も加わり、企業のIT投資はかつてない盛り上がりを見せています。
日本情報システム・ユーザー協会の「企業IT動向調査報告書 2023」によると、2023年度のIT予算を増加させると回答した企業の割合は全体の46.1%に達し、2年前の21年度においてIT予算を増加させると回答していた38.5%という割合を大幅に上回っています。
その一方で、多くの企業で取り組むDXプロジェクトでは、業務改革とITシステム導入・刷新を両輪で進める中、当初の目的・目標、またQCD達成(「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Delivery(納期)」)のいずれに対しても、うまくいっていないことが大きな課題となっています。
私たちもこれまでにも提言してきたように、この課題解決には、まずはDXプロジェクト開始時に、実効性・実現性ある計画を策定することが非常に重要となります。ただ、多くのDXプロジェクトでは、プロジェクトマネジメントの知識が少なく、経験の浅い要員で構成され、計画策定そのものができず、QCDとリスクをコントロールする仕組み・仕掛けも持たないまま、プロジェクトが開始されしまうことが非常に多いのが実態です。
それでは、なぜ、DXプロジェクトで重要と謳われる実効性・実現性ある計画策定ができないのか、また、そのままプロジェクトが開始されてしまうのでしょうか。そこには、プロジェクト開始前に、「組織課題」「スキーム課題」「マネジメント・人材課題」という課題があるように見えます。
DXプロジェクト開始前に解決すべき課題
組織課題
DXプロジェクトは、経営トップの意向により始まるケースが非常に多いですが、問題はその実践にあたり、会社レベル・事業レベルの戦略・戦術では、DX推進・実行の方針・考え方としては、ふわっとした、また、ぼんやりした内容となり、現場での活動に方向感を示すことができていないということが挙げられます。
また、超上流、上流工程における自社内の経験・知見が少なく、コンサルファームに戦略・戦術、企画・計画を依頼するケースも数多く見られます。しかし、自社メンバへのヒアリングを通してコンサル知見にてとりまとめられた資料を自社メンバでレビューするだけでは、その意思・思いが十分に反映されることはありません。このような場合、自社メンバの理解・納得が不十分で腹落ちできていないことが多く、自ら活動する段階になった時に、次に具体的に何をしなければならないかが分からないという状況に陥ることもしばしばです。
ちなみに、DXの戦略・戦術、企画・計画を担当するメンバとしては十分な理解・納得があったとしても、次フェーズの推進・実行を別担当者に引き継ぐような場合も同じです。
このような企業では、現場の方々から、「戦略・戦術がない」「組織のミッション・役割責任が曖昧である」という声をよく聞きます。
この状況・状態では、チームや担当のレベルで問題を解消することは非常に難しく、「組織課題」と捉えて、以下のような対応を検討しなければなりません。
- DXの戦略、戦術、また、推進・実行を担当する組織をそれぞれに定義して、そのミッション・役割責任を明確化する
- DXの戦略を担当する組織で、DX戦略を策定して、経営層・経営トップと合意する
- DXの戦略を担当する組織は、企画、計画、推進・実行に対しても、統制を効かす役割を担
- DXの戦略を担当する組織が、予算化、予算執行の最終責任を持つ
- DXの戦術を担当する組織は、その企画、計画に検討する時点から、推進・実行する業務・システムの現場担当者(マネージャー、リーダー)を巻き込む
- DXの戦略や戦術を担当する組織は、複数のDXプロジェクトが業務・システム・データ・リソース(ヒトモノ・カネ)の点で相互に影響することを認識してプログラムマネジメントを行う
- 上記の戦略、戦術、推進・実行の活動のリソースが不足する場合は、丸投げするのではなく、一体となり、実現性・実効性を踏まえて、伴走してもらえるようなコンサルティングを依頼する
スキーム課題
DXプロジェクトは、単なるデジタル化・IT化ではなく、新たなIT技術を活用した業務変革を実現することを目的としています。しかし、いざプロジェクトが開始すると、これまでのシステム構築・導入展開と同じような取り組みになっているケースを数多く目にします。
1つの問題は、プロジェクトが進む中でデジタル化・IT化という手段が目的化していくということです。
誰にどのような価値を提供するのか、そのために業務をどのように変えるのか、また、システムの現場への定着化とシステムやデータの利活用の促進に対して、どのようにアプローチしていくのか、など、デジタル化・IT化をなぜするのかという議論は、プロジェクト開始の早い段階でリリースやサービスインをGOALとした議論に変わってしまいます。
そもそもシステム開発を受託するベンダーは、「プロジェクトの成功=受託するシステム構築・導入のQCD達成」ですから、ベンダーにDXプロジェクトの推進・実行のマネジメント・リードを任せていては、当然、より顕著にこの状況に至ることになります。
もう一つの問題は、プロジェクトが始まるにつれ、ビジネスプロセスオーナーや業務担当の関与が薄くなるということです。
DXプロジェクトで業務変革を達成することが目的であるにも関わらず、プロジェクト開始後は、IT組織が進めるものと割り切り、ビジネスプロセスオーナーや業務担当者が受け身に回り、また、システム開発における工程審査やステアリングコミッティも、IT目線の説明・報告・審議のみで、業務目線でのそれは計画されていないケースがよくあります。
DXプロジェクトは「業務変革×システム構築」の両輪で進めていくものであり、このような「スキーム課題」があれば、DXプロジェクト開始前に課題解決に取り組まなければなりません。
- 業務とITが一体となり、企画・計画を立て、推進・実行するスキームを定義する
- ビジネスプロセスオーナーとシステムオーナーのミッション・役割責任を明確化する
- 自社が中心となり、DXプロジェクトを推進・実行して、ベンダーに丸投げしない
- 自社だけではDXプロジェクトの推進・実行が難しい場合は、ベンダー立場ではなく、自社の立場で立ち振る舞いができる外部有知識者をプロジェクトに参画、また、アドバイザリーなどの支援を受ける
- ステアリングコミッティは、業務目線とIT目線でそれぞれ定期的に開催する
- DXプロジェクトの目的に対する対応状況を報告するとともに、システム構築・導入後の評価基準を明確化して、定期的に評価・振り返りできるよう計画する
マネジメント・人材課題
近年は、事業戦略にITが中心的な役割を果たすケースも増えてきています。もうITなしに事業戦略を実現・達成することは不可能になってきています。
当然、業務側でDXプロジェクトのテーマがあがり、DXプロジェクトの推進・実行が必要となりますが、業務現場ではITを詳しく知らない、また、プロジェクトの経験が少ない担当が、このような複雑なDXプロジェクトのプロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーに抜擢されることも良くあります。
しかし、この担当は現業を持っていることも多く、DXプロジェクト専任ではないケースが多く、さらに、業務組織内でこのような人材は非常に希少であり、DXプロジェクトを多数兼務しているケースもあります。
また、実行組織の組織長がDXプロジェクトのマネージャーやリーダーを兼務するケースもあります。
前述のようなDXプロジェクトでは、プロジェクト延伸、コスト増加、品質問題など、QCD達成ができないだけではなく、DXの当初目標を達成できる確率も非常に少なくなります。 これは、DXプロジェクトのプロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーの担当の問題ではなく、そもそも組織としてのマネジメントスキル不足、人材不足で、DXプロジェクトを確実に推進・実行できる条件を満たさないまま、現場任せになっているケースであり、「マネジメント・人材課題」を解決しなければなりません。
- 組織マネジメント、プログラムマネジメント/プロジェクトマネジメントの違いを理解する
- プログラムマネジメント/プロジェクトマネジメント人材を計画的に育成する
- プログラムマネジメント/プロジェクトマネジメントの外部有知識者が伴走、OJTで育成する
- プロジェクト参画マネージャー、リーダー、メンバのプロジェクト推進・実行で必要な工数を確保、組織内・組織間で合意をえる(現業や他プロジェクトの兼務を最小化する)
- リソース(ヒト・モノ・カネ)が不足する場合は、DXプロジェクトの優先順を再考して、選択と集中を図る
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