本質的な人的資本経営の実践のために

関口 英毅
2023.09.28

ここ数年、人的資本経営という言葉への注目が高まり、その言葉を聞かない日がないくらいになりました。
しかし、これまで人を大切にしてきたはずの日本企業にとっては、今までと何が違うのかがいまいち腹落ちしにくい面もあり、それが何を意味するのかを概念的には理解しながらも、何をすることかについては人によって回答が異なるというのが実態です。
過去にDXという言葉が流行りだした頃と同じように、一時のバズワードなのではないかという声も聞かれます。
そこで本コラムでは、人的資本経営の本質的な意味合いを掘り下げ、それを実践していくためには何が重要なのかをご紹介します。

人的資本経営とは

多くの方にはおさらいになるかと思いますが、ここで改めて人的資本経営について振り返ってみましょう。

2022年11月に経済産業省が公表した”人的資本経営~人材の価値を最大限に引き出す~”によると、人的資本経営とは”人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方”と定義されています。
人を大切にしてきた自負のある経営者の中には、充実した教育プログラムや働きやすい環境を提供しているのでうちは人的資本経営をやっている、と考える方もいらっしゃると思いますが、それはこの“その価値を最大限に引き出す”に対応する取り組みに着目されておられるのだと思います。
しかし、人的資本経営にはもう少し説明があります。
それは、“人材を「資本」として捉える”と“企業価値向上につなげる経営のあり方”というものです。
この2つは人的資本経営を語るうえで非常に重要なキーワードです。

人材は損益計算書に人件費として載ってくるように 、財務的にみると“コスト”にあたる存在でした。つまり、厳しい経営環境においては利益確保のための削減対象であり、調整弁となり得るものだったということです。失われた30年、企業は業務効率化とともに人件費カットを行い、利益確保を行ってきました。それは厳しい経営環境において必要な対応であり、苦渋の選択だったと思います。
しかし、人材を減らして利益を確保したところで縮小均衡していくだけであり、企業の競争力が大きく向上することは望めないでしょう。なぜなら業務効率化を進めているとはいえ、少ない人数でそれまでと同じかそれ以上のアウトプットを出さなければならない状況において、会社に残った社員は作業をこなすことで精いっぱいとなり、先を見据えた活動ができなくなってしまうからです。
さらに、次は自分かという不安感がある中で、リスクを取ってチャレンジすることを避けるようになることは想像に難くありません。教育にもお金をかけずOJTで済ませる。これでは従来型の仕事の範疇でしか人は成長しません。
これが長らく日本企業でイノベーションが生まれていない一因であり、多くの上場企業がPBR1倍割れに甘んじている遠因ではないかと著者は考えています。人的資本経営においてはこうした人材の扱いを大きく変え、新たな価値を創造するように投資をして人を磨き、活躍してもらうことを目指します。

次に「企業価値向上につなげる経営のあり方」ですが、「経営」という言葉が使われている通り、人が中心のテーマながらも人事部マターの話ではなく、経営マターの話となっている点をしっかり認識したいところです。
従って、人的資本についてどうしていくのかという話を経営レベルで議論するということはもちろん、そこから打ち出された施策の実施状況をモニタリングし、さらなる対応方針を打ち出すという継続的な営みが経営レベルで行われることが求められます。
一時的なプロジェクトのような取り組みではなく、複数のプロジェクトを束ねながら継続的にPDCAを回していくプログラムのようなもの、というようにも言えるでしょう。

何が難しいのか

ここまで人的資本経営について掘り下げてきましたが、人的資本経営に関する記事やセミナーは多くあふれていますので「そのくらいはもう分かっている」という方のほうが多いかと思います。しかしながら人的資本経営の実践が多くの企業において難しいのはなぜでしょうか?これまで議論させて頂いたエグゼクティブを含む様々な企業の人事や経営企画部門の方からは、共通して以下のような問題認識が聞かれています。

■人が中心の話であるがゆえに人事任せとなってしまう

  • 社内のステークホルダーが多く、人事が束ねられない
  • 人事組織のリソースや文化の問題(現業で忙しい、リスクを好まない守りの姿勢)もあり、これまでの人事課題の見直し程度となってしまう

■いつの間にか開示ありきの取り組みに

  • 制度対応という受け身的活動で当たり障りのないことをきれいに説明することに終始する
  • 過去の取り組み結果に視点が向いてしまい、将来どうあるべきか、そのために何をするのかが置き去りになってしまう

■有効な施策を絞り込むことができない

  • 企業価値へ影響が及ぶまでのタイムラグが大きいため、何にどれだけ投資すればどれくらい効果が得られるのか、有効な施策なのかの因果関係を説明できない
  • そもそも現状の人材ポートフォリオを把握できておらず中長期的な人材ポートフォリオを定義できないため、意味のある人材戦略を立案できない

■データ集計で現場が疲弊

  • 様々なデータを要求されるが、事業部やグループ会社にお願いしなければ集められない
  • フォーマットがバラバラのデータをエクセルと格闘しながら集計
  • 担当者が属人的に集計しているので計算ミスが発生、継続性が心配

貴社でも思い当たる点があるのではないでしょうか?

こうしたことから、TISでは人的資本経営の実践においては、明確な目的や推進体制およびそのリーダーシップという「建付けの問題」と、議論のベースとなる情報を如何に収集し読み解くかという「データ整備・利活用の問題」がボトルネックとなっていると認識しており、これらの解決が重要と考えています。

TISのサービス

こうしたボトルネック解消のためには、第三者的な立場の人間がファシリテーターとなって実行力あるプログラムと体制の構築をリードすることが有効です。また、状況をモニターできる環境をITの力を使って実現することが、持続的な取り組みとなる人的資本経営を推進していく上で、遠回りのようで近道なのです。

TISでは長年のシステムインテグレーションサービスに自社での実践経験を踏まえたコンサルティングサービスを融合し、人的資本経営に関する総合的な支援を行っています。体制構築から現状調査・実行計画立案、人材戦略策定、モニタリング基盤の構築といった人的資本経営の土台づくりはもちろん、エンゲージメント向上施策などの風土改革支援までを伴走型でトータルにご支援することが可能です。

  • ISO 30414プロフェッショナル認証を取得したリードコンサルタント/アセッサーが、人的資本経営の最新の動向を踏まえたご支援を致します。
  • 現在設定しているKPIの有効性評価など、データアナリティクス技術を用いた非財務指標のインパクト分析を行うことも可能です。

最後に ~人的資本経営はバズワードなのか?

ここまで読んでおられる方に人的資本経営をバズワードだと思っていらっしゃる方はおられないかと思います。
競争力ある商品・サービスを打ち出すためには人の創造性が不可欠であるだけでなく、2030年問題と呼ばれる労働人口不足の問題が迫る中、人的資本経営に取り組まない企業は生き残ることができないでしょう。
しかし、組織として本質的な意味合いを理解しないまま人的資本経営を進めてしまえば望ましい成果を創出できず、数年後に振り返ったときに「あれはバズワードだった」ということになりかねません。
恐らくその時の日本は大きく競争力を低下させていることでしょう。そのようにならないためにも、本質的な人的資本経営にしっかりと向き合い、実践していきたいものです。

人的資本経営は長期的な取り組みとなります。あれもこれもしなければならないと言ってしまっては、いきなりスタックしてしまいます。私たちは、その段階ですべきことは何かを明確にして、着実に前進していくことをご支援致します。お悩みの方は是非お声がけください。


人的資本経営実践サービス

https://www.tis.jp/service_solution/human-capital-management/

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この記事の執筆者
関口 英毅
Sekiguchi Eiki
プロフィールを見る

1998年
通信会社にて法人企業へのソリューション営業を行う
2001年
コンサルティングファームにて全社業務改革、事業戦略、営業戦略等の立案に従事
2011年
メーカーにてソリューション・サービス事業の拡大に奔走しながら顧客企業へのコンサルティング活動を推進
2022年
TIS入社

専門

DXによる業務変革、改革構想策定
営業戦略、営業プロセス改革
人的資本経営、組織風土改革
事業戦略、新規事業開発