VUCA時代のサプライチェーンマネジメント①予測不可能な時代において、どのようなリスクを認識すべきか?

羽田野 大樹
2023.09.28

VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代といわれる予測困難な時代において、組織としてどうあるべきか、どのようなスキルを身につけていくべきかの提言は巷にあふれています。
では、問います。製造業のオペレーションの中核をなすサプライチェーンにおいて、具体的に何をリスクとして認識し、どのように備えていくべきなのでしょうか?
3回のコラムを通じてVUCA時代のサプライチェーンマネジメントについてお伝えします。

 第1回:予測不可能な時代において、どのようなリスクを認識すべきか(本コラム)
 第2回:リスク発見方法・対処の方向性
 第3回:リスク対処の処方箋(バッファーマネジメントについて)

VUCAとは何か?(抽象度の高い概念の明瞭化を試みる)

VUCAという言葉を「予測不可能な条件」とか「不確実性の高いリスク」といったざっくりとしたイメージとセットでとらえている方も多いと思います。新しい概念が出てきたときには、言葉の定義に立ち戻ることが重要です。言葉の解像度が不明瞭のまま検討しても、現状認識している範囲でしかリスクを洗い出すことができず、その認識から出発した対応策は対処療法的になります。

VUCAに含まれる言葉を一つ一つ吟味していきましょう。

Volatility:変動性

もともとのVolatileの言葉は「揮発性が高い」ことで、気化しやすい・爆発しやすい液化物で使われています。状態が変わりやすい、大きく変動する特徴のことをVolatilityが高いといいます。株価などの価格が大きく変動する状況でも使われます。

Uncertainty:不確実性

原因のない結果というものは存在しません。結果を得るためにはなんらか対策を講じる必要がありますが、対策をとってもうまくいく場合といかない場合があります。そこには何らかの条件が関わっているのですが、その条件が時と場合によって異なるがゆえに、結果が不安定になりやすい状況のことを不確実性が高い状況といいます。よい提案をしても、その時点の他課題の優先順位や周りの協力や予算といった条件が作用して結果が得られず、時間を置いたら条件が変わったために提案が採用されることはよくあります。

Complexity:複雑性

複雑性は結果にいたるまでの要素が複数あり、それぞれが絡み合っている状況のことを指します。システムが大きくなればなるほど、サブシステムに分割され、それぞれが連携しあいます。 組織が大きくなればなるほど役割が分割され、それぞれが連携しあいますし、製品やソフトウェアも部品が大きくなると機能が分割されて機能同士が連携する状況を想像すると、複雑性をイメージしやすいかもしれません。

Ambiguity:曖昧性

自分と他人の認識が違うことはよくあります。上司が部下に指示するとき、上司の言葉で部下につたわってるはずなのに、お互いその言葉に対して別の理解をしている。言葉は事象そのものではないため、言語化した時点で完全ではなく、不完全であるがゆえにそれぞれの人が解釈するときにずれが生じます。そういった状況を曖昧性といいます。

SCMで認識するリスク

リスクとは何か?

よい結果を得るためには、そのための対策(原因)を練る必要がありますが、VUCAの条件が絡むことで、悪い結果になる場合があります。このコラムでは、その条件のことを「リスク」と定義します。

リスク自体も原因と結果の集積として作用してくるので、リスクの把握は困難を極めます。また、そのリスクは結果が現れる前に作用するが故に、まだ顕在化してません。顕在化した時点で課題となります。

顕在化していないリスクをどのように認識し、対策していくのか?それが3回の連載を通じてお伝えする本コラムのテーマとなります。

VUCA時代におけるSCMのリスク

消費者に製品を供給するまでには多くの工程があり、様々なリスクが存在しますが、VUCAの観点でどのようなリスクが存在するでしょうか。主なリスクを以下に挙げます。

  • Volatility:消費者の需要変動(SNSによる購買変動)、渋滞による配達時間変動、原材料の価格変動(為替変動の影響含む)などは状態が変わりやすいのでVolatilityが高いといえます。
  • Uncertainty:スキル差によるアウトプットのばらつき、温度・湿度などの条件に影響をうける製品品質などは、条件の違いによって結果にばらつきが生じるのでUncertaintyが高い状況といえます。
  • Complexity:製品の高機能化、サブスクリプションモデルへの移行、多品種少量生産への生産モデルチェンジ、規制強化(個人情報保護、電帳法対応等)などは、考慮すべき要素が多くComplexityが高い状況といえます。
  • Ambiguity:データドリブン経営、DX推進、AIを活用した業務の高度化など抽象度の高い目標設定などは、組織内で認識がばらつく状況が発生しやすく、Ambiguityが高い状況といえます。

まとめ

VUCA時代のサプライチェーンマネジメントとして、VUCAやリスクの言葉の定義に立ち戻り、その定義に基づいてSCMのリスクを掲げました。みなさんがいま取り組んでいる課題はVUCAのどの状況に分類されるでしょうか?その分類を明確にするだけでも課題の特性が整理され、対処法を考えやすくなりますので、本コラムで振り返っていただけると幸いです。

次回コラムでは、リスク発見・対処法についてお伝えします。


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この記事の執筆者
羽田野 大樹
Hatano Hiroki
プロフィールを見る

2021年
10月 TIS入社
2021年
10月 石油企業向けデータ基盤構想策定(~2022年3月)
2022年
3月 日経BPイベント講演
2022年
4月 サプライチェーンデータコンサルティングのオファリング作成、提案活動中
2023年
1月 Vector Management Consulting 社外取締役就任

専門

サプライチェーン
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組織改革