(前編より続く)
INDEX
将来的な脱炭素を見据えたはじめの一歩
そもそも何をすればクレジット発行につながるのか。
農業におけるカーボンクレジットは、Jクレジットの場合、水田の中干期間の延長によるメタンガスの削減や、バイオ炭の施用などを中心とした一握りの手法に限られていますが、グローバルでは不耕起栽培も含めた幅広い選択肢があります。
なお、土壌の炭素量を増やす方法は大きく2つあり、①作物残渣や堆肥・肥料など炭素含有量が多い物質を土壌に入れるか、②天然有機物の分解・減衰率の低減と浸食による土壌中炭素の流出の防止なのですが、いずれも脱炭素の他にメリットがあり、実際のところ、元から農地のためだったり、その地域の手法として踏襲されているものが多くあります。
現に土壌品質を語る上で、炭素はその他の指標と共に、重要視されており、無機炭素は微生物の住処となり、有機炭素はエサとなります。したがって、本来あるべき姿としては、環境配慮型の農業を行う中で、脱炭素も実現できることだと言えます。
サステナブル農業の推進を通じた農作物の輸出促進を目指す
出典:
農林水産省ー農産局農業環境対策課 『有機農業をめぐる事情』 p.2
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/meguji-full.pdf
実のところ、農水省は2050年までに目指す姿としてゼロエミッション化と共に、化学農薬の半減、更には有機農業への転換目標を面積ベースで2017年の40倍近くである100万haとしているのですが、同じ資料では有機農業は、生物多様性の保全・促進に加えて、農地面積1haあたりの CO2の削減量が、化学肥料などを使用する慣行農業との差分で見ても、年間0.93t程度あるという調査結果を掲載しています。
出典:
農林水産省ー農産局農業環境対策課 『有機農業をめぐる事情』 p.4
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/meguji-full.pdf
確かに日本は世界で見ても有機農業の取組面積割合が中国よりも低く、一人あたりの年間有機食品消費額は欧米と比べても圧倒的に少ないのが実態です。
出典:
農林水産省ー農産局農業環境対策課 『有機農業をめぐる事情』 p.7
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/meguji-full.pdf
また、有機農業について日本で語る際に、そもそもの需要を疑問視する声が少なくないのですが、このような背景も踏まえて、改めて国別有機食品売上高を見ると、日本の1,800億円程度に対して、アメリカと欧州がそれぞれ4-5兆円以上で、中国が1兆円以上と、市場規模の差は明確です。
出典:
農林水産省ー農産局農業環境対策課 『有機農業をめぐる事情』 p.5
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/meguji-full.pdf
以上、そのような状況の中で、日本の農林水産物・食品の輸出額実績と目標を見ると、2021年にとうとう1兆円を超え、2030年には5兆円を目標としており、そのうち農産物は2021年実績で8,000億円、2030年目標は3.5兆円です。
出典:
農林水産省ー農産局農業環境対策課 『有機農業をめぐる事情』 p.6
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/meguji-full.pdf
日本が誇る農作物の輸出拡大に向けた取り組みとして、鮮度重視のものは引き続きアジアを中心に浸透を図りつつも、加工品などそれ以外のもの、特に価格の許容度が高い嗜好品については、欧米に向けた更なる認知拡大および新たな付加価値と共に訴求していくことが重要です。その際に、ウイスキーや日本酒といった酒類に加えて、最近海外でも健康意識の高い層の間で注目されている緑茶・抹茶といった日本を代表する嗜好品の裾野を如何に拡大できるかが今後の課題です。
まずは生産者の努力が報われる環境整備から始める
特に緑茶については、EUへの輸出にあたって最も大きな障壁なのが、残留農薬規定です。面積ベースでは緑茶の有機栽培比率は他の作物と比べて大きいのですが、それでもまだ農薬を使用するのが当たり前の業界であり、EUへの輸出にあたっては味や価格以前の問題として立ちはだかっています。また、ある有機栽培の生産者いわく、商社がトライアルで仕入れたい量が自分たちの年間生産量の10倍であるため対応できずに終わったという機会損失もある中、より多くの生産者がEUの残留農薬基準を満たすことによって、新たな販路が期待できます。
有機栽培あるいは農薬使用量を極力抑えた栽培方法に取り組む生産者を増やすためには何が必要か。現状有機栽培に取り組む生産者は、信念をもって土づくりから除草作業まで、手間暇かけて行っています。たとえば、とある八女茶の生産者は、体調を崩してから、とにかく体に良いものをという想いを込めて土づくりを研究し、今では40年近く独自の有機栽培八女茶を販売し続けています。一方で、その労力に見合う単価と安定的な収益が得られているかというと、そうとは限りません。このような生産者がいるからこそ、周辺環境は守られ、良い作物が育つ農地が保たれているのですが、まずは、昨今の世界的なサステナビリティへの関心の高まりに合わせて、本当の意味で健康と環境に配慮した農業とその価値について、理解促進を行う必要があります。
土壌データに基づく新たな価値流通
良い作物の育成や害虫問題の回避、更には環境負荷をかけずに長期的に作物を育てていくために必要不可欠なのが健康的な土壌です。土壌研究は海外の方が盛んに行われていますが、化学肥料や化学農薬の使用量が世界で1,2位を争う日本の土壌の多くでは微生物が死滅しており、その結果、野菜の栄養素も著しく低下していると言われています。
出典:
RADIANT立命館大学研究活動報 『日本の農業を土から変える「微生物」。』
https://www.ritsumei.ac.jp/research/radiant/gastronomy/story5.html/
たとえば、黒川温泉では旅館の残渣をコンポストで堆肥にし、地域の農家さんに提供するという取り組みがメディアでも取り上げられていましたが、そこには循環だけでなく、良い土を通じてより栄養価が高くておいしい作物が育つというメリットがあります。黒川温泉の場合はそれをうまくPR化できたため、ブランドとしての価値が認められていますが、それを今後、より多くの生産者が活用できるスキームとして構築しようとしているのが以下の農地データベースです。
農地の微生物多様性や炭素・窒素量などのデータを土壌サンプリングで収集し、それを公開する。そうすることによって、“土壌のサステナビリティ”を作物の新たな価値基準として浸透させるのが狙いです。その際には、既に販売済みの商品もQRコードなどで土壌品質を確認できるようにしつつ、そのデータに紐づくカタチで新たな価値の流通を促します。NFTやトークン、また将来的にはABLやSTOなどを通じて、まだこれから育つ作物の所有権を事前販売して生産者の収益化を目指します。
なお、短期的には世界中の生活者に対する認知拡大と興味喚起を目的とした企画ならびに中長期的なコミュニティづくりを行っていく予定で、まずは将来を担う子供たち、また次の世代へとバトンを渡す高齢者の方々、更には健康を気遣う必要がある入院中の患者を対象に、「優良な土壌の上で育つ、栄養価の高い作物を寄付しよう」というプロジェクトを立ち上げる準備をしています。お茶は土の量や深さ、更には育成期間が長い上に、製茶工程も考慮する必要があるため、まずはミニトマトからの実施を予定していますが、企画概要は以下の通りです。
ミニトマトは栄養価が高い上に、室内で育てられ、また栽培期間も短く量産できるため、ぜひ学校の給食や、介護施設ないしは病院の食事に添えていただけたらと考えています。
まだまだパートナーとなる施設は探している最中ですので、もしご興味のある方がいらっしゃれば、ぜひご連絡いただきたいと思います。
このようなカタチで国内外の生活者の興味関心を集めることによってコミュニティを拡大していき、将来的には生産者の作物をどう売っていくかといったマーケティングにまつわる判断も、コミュニティ全体で支援をしながら共同で行えるようにできたらなと考えています。生産者のこだわりの結晶であえる良い土には良い作物が育ち、良い作物は売り方の工夫次第でちゃんと売れる。そのような世界の実現が私の夢です。